狐のいたずら
隣の家との境界の斜面に見慣れない花が咲いている。
橙色(だいだいいろ)をしている。
奇妙な事に緑の葉の姿は見えない。
草むらから茎が飛び出して、その先にオレンジ色の花がついているだけなのである。
しかも花は群落をなしている。
斜面はうっすらとしたオレンジ色の花に覆われて、絨毯(じゅうたん)をしいたようになっている。
<あれは何の花なんだろう>。
わたしは庭の草取りをしている家内に尋ねた。
<ヒガンバナじゃない?>と彼女は言う。
でもヒガンバナにしては時期が早すぎる。
それにヒガンバナはもっと真っ赤な色をしている。
わたしは庭に出る度(たび)にその花の事が気になって仕方がなかった。
<一体何という花なのだろう>。
心の中でいつもその疑問を引きずりながら、既に一週間が過ぎた。
*
昨日の夜、居間で植物図鑑をパラパラとめくっていた。
その時である。
あの花の写真が目に飛び込んで来たではないか。
そこで見た花の名前は?
<キツネノカミソリ>。
一瞬わたしは心の中でつぶやいた。
<何じゃこりゃ。
狐(きつね)の剃刀(かみそり)とは・・・>。
*
急いで説明を読む。
●スイセンに似た葉っぱは夏には枯れてしまう。
●その葉っぱの形がカミソリに似ている。
●その緑の葉っぱがパッと消えてなくなり、突然、その場所に派手なオレンジ色の花が咲く。<あの葉っぱはどこに消えてしまったのだろう。もしかして誰かが葉っぱを花に変えてしまったのだろうか>。不思議な感じを与えるので狐に化(ば)かされているような気分になる。だからその花をキツネノカミソリというのだそうである。
●キツネノカミソリの花が咲くのは8月の<お盆>の時期である。
●一方、ヒガンバナは9月の<お彼岸>の頃に咲く。
昔の人はおもしろい名前をつけたものである。
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