After the empire
ジョン : メリー。いるかい。
メリー : まあ。ジョンおじさん。どうしたの。あわてて。
J うん。メリー。ちょっと聞いてくれないか。
M うーん。でも宿題があるから手短かにしてよね。
J メリー。今日はいやに冷たいじゃないか。友だちだろう。
M 冗談よ。ジョンおじさん。メリーはおじさんのファンなんだから。いつでも、何でもきいてあげるわよ。何かいい事があったの。
J そうじゃない。おじさんはね、ある一冊の本を読んで感激しているのさ。
M その読書感想を聞く役目がわたしってことね。
J うん。まあ。そうなるかね。
M どんな本なの。ジョンおじさん。
J うん。ほら。これがその本なんだ。フランス人が書いた本だ。書いたのはエマヌエル・トッドさん。題名は<帝国以後>というんだ。2002年にフランスで出版。いい本なのでメリーにその事を報告しようとおもったのさ。
M へえー。帝国ってローマ帝国の事なの。
J いや。そうじゃなくて、この場合は<アメリカ>って事だ。
M じゃー。<以後>というのは、どういう意味なのかしら。
J それなんだよ。トッドさんが言うには、私たちは早く、アメリカ帝国の衰退後の事を考えなくてはと言っているんだ。
M まあ。アメリカ帝国の衰退 ?
J そうだ。
M でもジョンおじさん。アメリカは今度もイランを攻撃するって言ってるじゃないの。それに核攻撃さえも......。そんなアメリカが衰退するって。信じられないわ。
J うん。おじさんも同じように考えていた。でもトッドさんは1991年のソビエトの崩壊を1976年の時点で予見していた人なんだ。
<最後の転落>(1976)という本で彼はロシアの衰退を結論している。
M まあ。つまりその彼が今度はアメリカって言っているわけね。
J うん。彼は書いている。
"世界はそのようなアメリカを必要としない。.....ところがアメリカは世界なしではやって行けなくなっている。.....外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。.........通商の黒字によって蓄積される現実の金は、ヨーロッパとアジアにある。アメリカはもはや財政的に言って、世界規模の栄光の乞食にすぎないのであるから。...........真の国力とは経済的なものであり、その国力をアメリカは、もはや持っていない。超大国アメリカというのは、習慣でもっているだけの神話に過ぎない。"
M ジョンおじさん。わたし。経済は苦手なのよ。何を言っているかよく分らない。ごめんなさい。
J うん。言っている事は、つまりこういう事さ。例えばアメリカが中国からものを輸入するとするね。
例えば日曜大工の電動カンナを1000台。一個45ドル。合計で4万5000ドルだ。
この代金をアメリカは中国のメーカーに支払う。
この場合、今のやり方は実際にドル札が動くわけじゃないんだ。銀行の口座の数字が動くだけなのさ。でも国と国の間では、ちゃんといつかは精算されるようになっているんだ。
例えば1年間で精算する。全部の中国からの輸入とアメリカから中国への輸出が差し引きされる。その結果、もし中国の方がプラスになったら。その分は中国の出超という事になるわけだ。中国はその金をアメリカから中国へ送らせても良い。でも今までは中国はその黒字の分はアメリカの国債を買っていた。それを外貨準備高というんだ。
つまりアメリカが中国にした借金だ。この額が今では大変な額になっているのさ。
しかし、もしアメリカ国債の値段が下がった場合、中国はせっかく汗水たらして儲けた黒字の額が一瞬のうちにそれだけ価値をなくすことになる。
J メリー。ここまではわかるよね。
M そうねー。何となくわかるわ。
J それに国債は、つまり借金だから、アメリカは中国にチャンと金利を払わなくてはならない。中国だけじゃない。アメリカはほとんどの国に対してほぼ同じ問題をかかえているのさ。日本に対しても、他のアジアの国にしても同じ状況なんだ。その金利の負担だけでも大変な額になっているのさ。
M なるほど。
J この場合、アメリカは基軸通貨の特権を使ってドル札をどんどん印刷して払える。
でももしドルの信用がなくなり、ドルの価値が下がった場合には、基軸通貨の特権さえも失いかねない。
実はイラクとかイランとか、そこでアメリカが本当に守ろうとしているのは、ドル基軸通貨特権なんだ。中東地域はオイルダラーの源だから、この地域がドル圏であることがアメリカにとっては死活問題なのだよ。
基軸通貨特権をなくすと、もうタダでドル札を刷れなくなる。
これが<帝国以後>という本当の意味なんだ。
M ジョンおじさんはアメリカによるドルを中軸とした世界の経済秩序が崩れるかもしれないと考えているのね。
J うーん。すぐにそれが一時にパッと崩れるという風には思わない。
トッドさんがソビエトの崩壊を予見してそれが現実化したのが15年後だった。今は時間のスピードはむかしに比べ早くなっている。
いつこれが起きるか。それはあまり重要じゃないと思う。
でもこれが起きるという点については、おじさんはそう思うね。
M ジョンおじさん。わたしこわくなって来たわ。
どうすれば良いの。それを知ったところで不安になるばかりじゃないの。
J うん。おじさんも同じさ。実はもうおじさんの年金も相当カットされていてね。これ以上カットされたら、もうおじさんはどうやって生活していくか。
それを考えると不安でたまらないのさ。
でもね。メリー。大切なのは早く真実を知るという事なんだ。真実が分れば、人間は知恵を出して乗り切ろうとするし、過去、そうやってみんな乗り切って生き抜いてきた。
M ではおじさんはわたしをこわがらせるためにその話をしている訳じゃないのね。
J もちろん。
メリーはわたしの大切な友だちだ。
だからメリーに話したかったのさ。
M 何を。
J 人間は、いつか、いままでの習慣とか考え方を大きく変えなくてはならない時期があるという事だ。
戦後60年。2世代が過ぎた。
今までの考え方、やり方、習慣はもう役に立たない。もしそれを続けているとしたら、それは大変危険だという事だよ。
もっと基本的なところに戻るべきだね。
M 分らない。なんの事か。
J 1991年にソビエトが崩壊した時、みんなは思った。これで資本主義と民主主義の時代が来るとね。
でも実際に来たのは、<テロの時代>だった。
トッドさんははっきり言っている。
<全世界的なテロリズムの神話>だとね。
実際に起きた事はアメリカもソビエトも同じだった。
東西緊張が崩れたというのはアメリカも同じだけの傷を負ったという事なんだ。
それを隠す為にアメリカが考えた神話が<テロの神話>だったんだ。
それなしにはアメリカはあの膨大な軍事予算を正当化できなかったのさ。
これが今だんだんみんなの目に見え始めてきた。
M ジョンおじさん。おじさんの言いたい事は本当の戦後の姿が今やっと見えて来たという事なのね。
J そうだ。ただ単に、ドルが落ちるといった事より大切なのは、もっと大きな枠組み自体の変化だ。
もっというと今の時代はロシアとか中国とかインドとか、アジアの国々がどんどん前進をはじめている時だ。
ずばり言って<開発途上国の上昇期>らしい。
そういう風に見るとダイナミックな時代。
インドが離陸するなんて、一体誰が5年前に予測できただろう。
それから例えばイランはインターネットが盛んで、ブログをやっている人の数は2005年現在、世界第4位。こんな事は数年前までは思いもよらない事だった。
M じゃあ きくけど、メリーは何をしたらいいの。
J うん。それは大変むずかしい質問だね。
今までの惰性の考え方を捨てる事だね。
例えば、"良い大学に行って、良い会社に勤めて........。給料はこの位で。"
これは戦後OECDなどの金持ちクラブの国に通用したむかしの考え方だ。
今はもうそういう常識的、惰性的ないき方ではダメだ。
物と金と豊かさがほしい。
もしそうならそれを本当に、一生懸命に目指す。
しかし金は必ずしも幸福と同じではない。
もし幸せがそれでもほしいなら、物に釣り合う自分のこころを作る事が必要だ。
そんなにつんのめってまで、金がほしくないなら、こころを先行させる。
まず心の宝,、こころの楽しみを増やす。
つまり自分のこころを広く深く耕す。
大切な事はいつも自分に自信を持ち、誇りを持つ事だ。
そしていつも前に進んで行く。
しかし、無理をする必要はない。
肝心なのは、"自分が自分を好きになるという事"。
それが一番大切なんだ。
これが幸せの王道なのさ。
M つまりおじさんが言いたいのは、先進国の生活のレベルが落ちるということなのね。
J うん。それは避けられないね。今までの金持ち先進国クラブはもう機能しないよ。
独占は破られた。
そうではなくて、もっとダイナミックな世界がやってくるみたいだね。
長い事、地獄のような生活や歴史を体験した中国とかインドが立ち上がったんだからね。
それだけで23億人。
おじさんはまだ知らない沢山の他の国々について知りたい。
それらの国の事を大いに知って、それらの国にできれば行ってみたい。
いろいろな友だちを作りたい。
それに自分の国の事ももっと良く知りたい。
それがおじさんの楽しみなんだ。
M わかったわ。ジョンおじさんは年金が減っただけ、楽しみを増やしているわけなのね。


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