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2006-05-03

After the empire

ジョン : メリー。いるかい。

メリー : まあ。ジョンおじさん。どうしたの。あわてて。

J     うん。メリー。ちょっと聞いてくれないか。

M  うーん。でも宿題があるから手短かにしてよね。

J     メリー。今日はいやに冷たいじゃないか。友だちだろう。Tree3

M     冗談よ。ジョンおじさん。メリーはおじさんのファンなんだから。いつでも、何でもきいてあげるわよ。何かいい事があったの。

J    そうじゃない。おじさんはね、ある一冊の本を読んで感激しているのさ。

M    その読書感想を聞く役目がわたしってことね。

J     うん。まあ。そうなるかね。

M     どんな本なの。ジョンおじさん。

J      うん。ほら。これがその本なんだ。フランス人が書いた本だ。書いたのはエマヌエル・トッドさん。題名は<帝国以後>というんだ。2002年にフランスで出版。いい本なのでメリーにその事を報告しようとおもったのさ。

M      へえー。帝国ってローマ帝国の事なの。

J      いや。そうじゃなくて、この場合は<アメリカ>って事だ。

M     じゃー。<以後>というのは、どういう意味なのかしら。

J      それなんだよ。トッドさんが言うには、私たちは早く、アメリカ帝国の衰退後の事を考えなくてはと言っているんだ。

M      まあ。アメリカ帝国の衰退 ?

J   そうだ。

M   でもジョンおじさん。アメリカは今度もイランを攻撃するって言ってるじゃないの。それに核攻撃さえも......。そんなアメリカが衰退するって。信じられないわ。

J   うん。おじさんも同じように考えていた。でもトッドさんは1991年のソビエトの崩壊を1976年の時点で予見していた人なんだ。

<最後の転落>(1976)という本で彼はロシアの衰退を結論している。

M      まあ。つまりその彼が今度はアメリカって言っているわけね。

J   うん。彼は書いている。

"世界はそのようなアメリカを必要としない。.....ところがアメリカは世界なしではやって行けなくなっている。.....外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。.........通商の黒字によって蓄積される現実の金は、ヨーロッパとアジアにある。アメリカはもはや財政的に言って、世界規模の栄光の乞食にすぎないのであるから。...........真の国力とは経済的なものであり、その国力をアメリカは、もはや持っていない。超大国アメリカというのは、習慣でもっているだけの神話に過ぎない。"

M  ジョンおじさん。わたし。経済は苦手なのよ。何を言っているかよく分らない。ごめんなさい。

J  うん。言っている事は、つまりこういう事さ。例えばアメリカが中国からものを輸入するとするね。

例えば日曜大工の電動カンナを1000台。一個45ドル。合計で4万5000ドルだ。

この代金をアメリカは中国のメーカーに支払う。

この場合、今のやり方は実際にドル札が動くわけじゃないんだ。銀行の口座の数字が動くだけなのさ。でも国と国の間では、ちゃんといつかは精算されるようになっているんだ。

例えば1年間で精算する。全部の中国からの輸入とアメリカから中国への輸出が差し引きされる。その結果、もし中国の方がプラスになったら。その分は中国の出超という事になるわけだ。中国はその金をアメリカから中国へ送らせても良い。でも今までは中国はその黒字の分はアメリカの国債を買っていた。それを外貨準備高というんだ。

つまりアメリカが中国にした借金だ。この額が今では大変な額になっているのさ。

しかし、もしアメリカ国債の値段が下がった場合、中国はせっかく汗水たらして儲けた黒字の額が一瞬のうちにそれだけ価値をなくすことになる。

J   メリー。ここまではわかるよね。

M  そうねー。何となくわかるわ。

J  それに国債は、つまり借金だから、アメリカは中国にチャンと金利を払わなくてはならない。中国だけじゃない。アメリカはほとんどの国に対してほぼ同じ問題をかかえているのさ。日本に対しても、他のアジアの国にしても同じ状況なんだ。その金利の負担だけでも大変な額になっているのさ。

M  なるほど。

J     この場合、アメリカは基軸通貨の特権を使ってドル札をどんどん印刷して払える。

でももしドルの信用がなくなり、ドルの価値が下がった場合には、基軸通貨の特権さえも失いかねない。

実はイラクとかイランとか、そこでアメリカが本当に守ろうとしているのは、ドル基軸通貨特権なんだ。中東地域はオイルダラーの源だから、この地域がドル圏であることがアメリカにとっては死活問題なのだよ。

基軸通貨特権をなくすと、もうタダでドル札を刷れなくなる。

これが<帝国以後>という本当の意味なんだ。

M  ジョンおじさんはアメリカによるドルを中軸とした世界の経済秩序が崩れるかもしれないと考えているのね。

J  うーん。すぐにそれが一時にパッと崩れるという風には思わない。

トッドさんがソビエトの崩壊を予見してそれが現実化したのが15年後だった。今は時間のスピードはむかしに比べ早くなっている。

いつこれが起きるか。それはあまり重要じゃないと思う。

でもこれが起きるという点については、おじさんはそう思うね。

M   ジョンおじさん。わたしこわくなって来たわ。

どうすれば良いの。それを知ったところで不安になるばかりじゃないの。

J  うん。おじさんも同じさ。実はもうおじさんの年金も相当カットされていてね。これ以上カットされたら、もうおじさんはどうやって生活していくか。

それを考えると不安でたまらないのさ。

でもね。メリー。大切なのは早く真実を知るという事なんだ。真実が分れば、人間は知恵を出して乗り切ろうとするし、過去、そうやってみんな乗り切って生き抜いてきた。

M  ではおじさんはわたしをこわがらせるためにその話をしている訳じゃないのね。

J  もちろん。

メリーはわたしの大切な友だちだ。

だからメリーに話したかったのさ。

M  何を。

J     人間は、いつか、いままでの習慣とか考え方を大きく変えなくてはならない時期があるという事だ。

戦後60年。2世代が過ぎた。

今までの考え方、やり方、習慣はもう役に立たない。もしそれを続けているとしたら、それは大変危険だという事だよ。

もっと基本的なところに戻るべきだね。

M  分らない。なんの事か。

J  1991年にソビエトが崩壊した時、みんなは思った。これで資本主義と民主主義の時代が来るとね。

でも実際に来たのは、<テロの時代>だった。

トッドさんははっきり言っている。

<全世界的なテロリズムの神話>だとね。

実際に起きた事はアメリカもソビエトも同じだった。

東西緊張が崩れたというのはアメリカも同じだけの傷を負ったという事なんだ。

それを隠す為にアメリカが考えた神話が<テロの神話>だったんだ。

それなしにはアメリカはあの膨大な軍事予算を正当化できなかったのさ。

これが今だんだんみんなの目に見え始めてきた。

M  ジョンおじさん。おじさんの言いたい事は本当の戦後の姿が今やっと見えて来たという事なのね。

J  そうだ。ただ単に、ドルが落ちるといった事より大切なのは、もっと大きな枠組み自体の変化だ。

もっというと今の時代はロシアとか中国とかインドとか、アジアの国々がどんどん前進をはじめている時だ。

ずばり言って<開発途上国の上昇期>らしい。

そういう風に見るとダイナミックな時代。

インドが離陸するなんて、一体誰が5年前に予測できただろう。

それから例えばイランはインターネットが盛んで、ブログをやっている人の数は2005年現在、世界第4位。こんな事は数年前までは思いもよらない事だった。

M じゃあ きくけど、メリーは何をしたらいいの。

J うん。それは大変むずかしい質問だね。

今までの惰性の考え方を捨てる事だね。

例えば、"良い大学に行って、良い会社に勤めて........。給料はこの位で。"

これは戦後OECDなどの金持ちクラブの国に通用したむかしの考え方だ。

今はもうそういう常識的、惰性的ないき方ではダメだ。

物と金と豊かさがほしい。

もしそうならそれを本当に、一生懸命に目指す。

しかし金は必ずしも幸福と同じではない。

もし幸せがそれでもほしいなら、物に釣り合う自分のこころを作る事が必要だ。

そんなにつんのめってまで、金がほしくないなら、こころを先行させる。

まず心の宝,、こころの楽しみを増やす。

つまり自分のこころを広く深く耕す。

大切な事はいつも自分に自信を持ち、誇りを持つ事だ。

そしていつも前に進んで行く。

しかし、無理をする必要はない。

肝心なのは、"自分が自分を好きになるという事"。

それが一番大切なんだ。

これが幸せの王道なのさ。

M つまりおじさんが言いたいのは、先進国の生活のレベルが落ちるということなのね。

J  うん。それは避けられないね。今までの金持ち先進国クラブはもう機能しないよ。

独占は破られた。

そうではなくて、もっとダイナミックな世界がやってくるみたいだね。

長い事、地獄のような生活や歴史を体験した中国とかインドが立ち上がったんだからね。

それだけで23億人。

おじさんはまだ知らない沢山の他の国々について知りたい。

それらの国の事を大いに知って、それらの国にできれば行ってみたい。

いろいろな友だちを作りたい。

それに自分の国の事ももっと良く知りたい。

それがおじさんの楽しみなんだ。

M  わかったわ。ジョンおじさんは年金が減っただけ、楽しみを増やしているわけなのね。

2006-04-14

オンリーワンの日本

ジョンおじさんは夕食を終わってメリーの家でくつろいでいる。

J メリー、今日はすこし話したい事があるんだ。

M まあ ジョンおじさん。ちょっと待ってね。おじさんの好きなコーヒーをもってくるから。Flower7

J ありがとう。ああ 今日のコーヒーは格別だね。おいしい.....。

M ジョンおじさん。もう宿題も終わったし、今日はゆっくりお話をきかせてね。

J 実は日本のお友達とおしゃべりしたり、メールのやり取りをしている時に<ジャパン・アズ・ナンバーワン>という話になってね。

M <ジャパン・アズ・ナンバーワン>?  まあ。それって何の事?

J アメリカ人で、エズラ・ヴォーゲルという人が書いた本の題名だ。出たのは確か2000年だったと思う。その中で彼は主張した。世界は日本に学ぶべきだとね。なにしろ日本は1985年頃はむかうところ敵なしの絶頂期だったからね。ヴォーゲルはその成功をたたえて日本を大いに持ち上げた。

M ふーん。それで。

J 日本の彼が言うには、その本が出たときに真っ先に買って読んだらしいんだ。それで感激。非常にハッピーな気分になったと言うんだ。

M なるほど。

J もう世界に学ぶものはなくなったと本気で考えたらしい。

M でも日本はこのごろ元気がないみたいだけど。

J そうなんだ。1990年、金利上昇を受けて日本のバブル経済が崩壊する。その後、日本は方向感覚を失い漂流する。日本ではその後の10年間を<失われた10年>と言っているみたいだね。

M まあ そうなの。でも極端よね。世界のトップを行く模範生から、突然、漂流するなんて。

J うん そうだね。

M ナンバーワンとかナンバーツーとか、なんで他と比較して自分を高く見たり、反対に低く見たりするのかしら。

Sasa1 J そうだね。しかし無理もないと思うよ。日本は1868年の明治維新以来、欧米に追いつけ追い越せとがむしゃらにやって来た国だからね。1985年の時点で言えば117年間もそうやって走り続けたんだよ。

M いま世界は大きな変化の時よね。特にグローバリゼーションとか言って、本当に大変な時代。そういう時にボーとしていられるのかしら。

J 日本はそうこうしているうちに、戦前と同じような状況に追いやられる危険があるね。日本の彼の言うことをきいていると、この頃、日本のまわりはまた敵ばかりになっている感じがする。

M それはどういう事なの。

J うん。第二次世界大戦、つまり太平洋戦争が始まる前はABCD包囲陣といって日本は敵でまわりを囲まれていたんだ。東アジアに権益を持つアメリカ、英国、中国、オランダが日本を経済封鎖にしてね。それが真珠湾攻撃の引き金になった。

M なるほど。

J 今の日本は中国、韓国、ロシア等のやっかいな国々に囲まれてまた途方にくれているみたいだ。アメリカも日本の友人だとは言うけれど、実は日本の心を知らない異邦人。原爆を日本の非戦闘員の上に落とした過去を謝る事もない。反省もしないアメリカに対する日本の不信。それにBSEとか。イラクとかイランとか。戦争屋のアメリカに心の底では失望しているのかもしれないね。

M ではおじさんは日本はまた孤立していくと思っているの。

J いや。これは日本の彼との話で出てきた事さ。

今度はそうじゃない。わたしは全然別の考えなんだ。実はいろいろと考えてみた。議論の末に出てきたのは日本は今度は<ジャパン・アズ・オンリーワン>でいくだろうという事におちついたんだ。つまり日本は自分をもっと大切にするだろう。自分自身をもっと尊敬して我が道を行くべきできっとそうするだろうと思うという事だ。Flower22

M どういう事。わたしにもよく分るように説明して。

J 何の事かというと、国際連合などのきれいな表面だけでなく、その底の部分を見ると実は今も世界は欧米の天下なのさ。

よくみてごらん。

わが英国を先頭に、ヨーロッパは18世紀、近代産業世界を最初に生み出した。

アメリカとロシアは所詮はヨーロッパの亜流に過ぎない。つまり同じ穴のムジナなんだ。同類とも言える。

あとの国は結局ほとんど全部ヨーロッパの旧植民地なんだ。インドも、アジア諸国も。中東諸国も。南米諸国もほとんどのところが、ヨーロッパの植民地だったんだ。

でもそうではない場所があった。日本だ。日本は自分の文化や基本的な考え方、言葉等を維持して、独立を唱え、しかも欧米を追い越そうするほどの自尊心を持った、誇りに満ちた、欧米以外の唯一の国だったんだよ。

欧米は勝手にルールを作り世界は欧米の手の中にあった。日本は欧米のその覇権に対して立ち上がった唯一の国だ。日清日露の戦争にも日本は勝った。これが当時、欧米植民地だったアジア、中東、南米に与えた影響は計り知れないね。

つまり極端に言えば、もし日本がいなかったら、欧米独占の世界はいつまでも続いたってことさ。原爆の本当の意味はだれにもわからない。でもこの事と無関係とはいえないのさ。出る釘は打たれるのさ。

はじめは欧米に遅れをとったとあまりにもあせって、日本は劣等感のようなものをもった。これはよくない。追い抜け追い越せでやってきた。でも日本は今は、誇りと自尊の立場に戻るべきなんだ。

日本は今まで説明してきた意味で世界でもユニークな存在なんだ。

日本は実ははじめからもともとジャパン・アズ・オンリーワンだったのさ。日本自身がまだそれをよく知らないだけなんだ。

M おどろいた。

J もっと驚く事があるよ。もう一つ別の面から日本を見てみよう。日本の文字だ。世界はABCなどの表音型文字を使う国と、表意型文字の漢字を使う中国や台湾等の国との2つに分けられる。世界の主流は表音型だ。

韓国は昔は漢字を使っていた。しかしこの頃は新聞も殆どハングル一色となっている。つまり表意文字を捨てて表音型に転向した。

日本は漢字圏に属しつつ、表音のかな文字を使っている。ついでに言うと別にカタカナという外国文化を取り入れる入れ物も持っている。つまり日本はこれからもずっと世界で唯一、表音表意陣営の両方に属している国なんだよ。これが第2のジャパン・アズ・オンリーワンさ。

これはすばらしい事なんだ。というのは日本は努力すれば、中国のこころも分るという事さ。でも漢字を使っていない他の国は結局中国のこころはわからないと思うね。なにしろ数千数万もある漢字を読むには長い年月の教育と蓄積がないと駄目だ。それが日本にはある。つまり中国を世界に組み入れていく為に日本は不可欠の役割をもっているという事だ。

M そうなの。知らなかったわ。

J それに宗教のあり方の面でも日本はユニークだね。世界の宗教は一神教と多神教に分かれる。キリスト教とかイスラム教はどちらもユダヤ教から派生した一神教だ。

でも日本の場合はそのどちらにも属さないのさ。なにしろ日本にはキリスト教はほとんどちからをもっていない。

世界が欧米の天下になってすでに300年以上。この間、宗教と言えばキリスト教を基準にいろいろ議論されてきたんだ。当然一神教を基準にして、それ以外の多神教という区別がされてきたんだ。

でもよく考え直して見ると、それは欧米キリスト教の物の見方で見ているだけという事がわかる。実際、そんな枠組みをとりはずしてごらん。そうすると全く別の見方ができると思う。

つまり右か左かじゃなくて、右も左も同時にあるという事さ。日本では一神でも多神になり、多神が一神になる。つまり全部どちらも理解できるという事さ。他のところではこれは無理だ。凝り固まってイデオロギーになっているからね。

Partenon 実はヨーロッパの最良の部分というのはギリシャの多神とユダヤの一神の相互のぶつかりあいとからみあいの中から搾り取られ、生まれているんだ。つまりそれは日本が本来持っているものと似ているんだ。

日本人は基本的にギリシャも分る。ユダヤも分る。中国も分る。これが第3のジャパン・アズ・オンリーワンだ。キャパが大きいという事だね、

ジャパン・アズ・オンリーワン。これはなかなかいいね。自尊心に満ちて、世界の人間と文化が本当によくわかる。そして、それをまとめていく役割が日本にはあるんじゃないかな。

M 日本にははじめからそういう、すばらしいオンリーワンのちからがあったのに、何故いままでそれを全力で発揮してこれなかったのかな。

J それが肝心なところだ。

今まで日本は欧米に追いつくという、そとにあるものを基準にしてやって来た。それはいけないね。

あくまでもまず自分が持っているものが如何にすばらしいものかを知ならなければならないね。それに感謝すること。これが基本なんだ。

つまり日本は今まではあまりにも器用すぎたんだね。分ったつもりになってやってきた。早のみこみをしたんだね。

本当に基本的なところから深く理解しようとしてこなかったんじゃないかな。

自分と相手をを知らなかったらやられる。

むこうの方がむしろ謙虚に真剣に日本を研究してくるからね。

中国にしても、アメリカにしても、ヨーロッパにしても、日本は本来の能力を発揮して、もっと徹底して研究してほしいと思うね。

それにしても日本という国は考えれば考えるほどすばらしいね。

<COLUMN OF ORION>

 

2006-04-10

パラレル・カルチャー

メリーは夕食ができた事を知らせにジョンおじさんのアパートに来ていた。ジョンおじさんはテレビを見ていた。ちょうどBBCニュースでフランスの外国人居住地区の様子を報道している。

M ジョンおじさん。この人達は国籍はフランス人なの?

J うん。全部ではないけれど、殆どはフランス国籍は持っているとBridgecezannes_1 思うよ。でもモロッコとかアルジェリアとかの旧フランス植民地からフランスに流れてきた人達の2世代、3世代が多いはずだ。

M ということはフランスは昔、アフリカに多くの植民地を持っていたのね。むかしの進出がいま自分にはねかえって来ているという事なのかしら。

J うん。そういう面もあるね。

M でも不思議ね。フランスに来て、フランスの国籍を取得した人達が生んでそだてた子供達が未だにフランスの社会に組み入れられていないというのは。

J そうだね。わたしもときどきそう思う。

M ジョンおじさん。どうすればこのようなゲットーがなくなるのかしら。

J うん。それはむずかしい質問だ。

おじさんはこう思うね。人間には本能的に<教育への情熱>というものがある。問題なのはこれがいろいろな国ではその情熱に差があるという点だ。

M 言っている意味が分らないわ。

J 例えばロシアの子供とモロッコの子供を比べる。何故か理由は分らないが、ロシアの子供には教育への情熱というか、勉強をしたい。自分をちゃんと教育したいという気持ちが強くあるんだ。しかもそれを両親が必死に支援しようという意思がある。でもモロッコとかトルコの国から来た人、あるいはその2世代目、3世代目の家庭では教育への情熱が比較的、弱いんだ。

M つまり両親が子供の教育に熱心な国もあれば、そうでない国もあるという事なのね。

J そのとおり。

Irisbeetmonet そこで考えてごらん。モロッコの普通の人がフランスに移動する。そこで工場で労働者として働く。そうしてフランスの国籍を取得する。子供を生む。2世代目だ。両親が2世代目の教育に対してあまり情熱がない場合。どうなると思う。

M そうね。家庭ではもちろんフランス語は話さないので、その子供はフランスの学校に行っても、ついていけなくなる。仲間はずれにされる。場合によってはいじめられ、バカにされる。

J そうだ。もう一つの壁がある。宗教だ。モロッコはイスラム教だ。当然かれらはフランスにモスクを建てて、そこで宗教的な祈りの生活を始める。もちろん子供たちはコーランを覚えるためにコーラン塾に通う。

コーランにはイスラム独特の価値観がいっぱいつまっている。それを吸収する。家庭でも男女関係はイスラム式だ。つまり2世代目は言葉と生活習慣でフランスの社会からどんどん外れて行く事になるんだ。これはドイツのトルコ人でも同じ事だ。

M でもモロッコにもちゃんとした教育を受けた人がいるんじゃない。その人がフランスに留学して大学を卒業してフランスに職を得て働いている場合はどうなのかしら。

J うん。その場合は少し違って来るね。その人がフランスに居残ってフランスで職を得て子供を作ったとする。彼は真っ先に子供を幼稚園に入れるだろうね。それもフランスの良い幼稚園を選んでね。

M という事はその子供は<フランス語>を完全に身につけるという事ね。

J うん、そういうこと。

M そしてフランスの子供と一緒に遊ぶ。それでフランス人の行動の仕方とかを肌で吸収するのね。

J そうだね。それがフランスに溶け込む最低条件といえる。それをその両親は知っている。知っているだけじゃなくて、それを実行できる金がある。

M なるほど。金がかかるわけね。

J もう一つ問題がある。その子供が2つの文化にどう向き合うかという点だ。

M つまりそうやって恵まれた環境で育ったモロッコ人の2世もいつかその問題に直面する。

J そのとおり。

M わたしなら2つの文化を吸収して、その上に立ってそれを逆にプラスに使うわ。2つの言葉をしゃべれるメリット。2つの文化を理解したメリットが使えるから。

J そう言うのはやさしい。でも実際にその立場に立つとそう簡単には行かないのさ。マルチカルチャーという言葉を知っているだろう。

アメリカが宣伝に使っている<民族のるつぼ>というやつさ。

これはもうあまり意味がないという事が分っている。アメリカの黒人のリーダー、キング牧師が暗殺された1929年にその事は分っていたはずなんだ。でもいつもマルチカルチャーという言葉は宣伝に利用されてきた。

この頃ではパラレルカルチャーという言葉が使われるようになっている。これはおじさんが思うに良いことだ。

M ジョンおじさんはつまりパラレルカルチャー派というわけね。

J うん。残念ながらそうだ。人間はアイデンティティーなしでは生きられないということなんだ。つまりどこかに心から帰属しないと生きられない。

メリーは2つのアイデンティティーはありえると思うかい。

 

2006-04-05

M  ねえ ジョンおじさん。歴史って何のためにあるの。わたし学校で時々歴史の時間がいやになることがあるの。何年になにがあったとか、かんとか。わたしに関係ないことが一杯なの。

J うん。そうだね。わたしにもそういう気持ちになった事はあるさ。でも考えてごらん。わたしたちは今ロンドンにいるだろう。滅多にこの町からは出ない。毎日平凡な毎日の繰り返しさ。でも歴史の中を見ると、いろいろな民族がいろいろな時代を生きてきた。それを知ると、何かワクワクするだろう。

M そうね。そういう時もあるけど。

J おじさんは歴史は人間の生きざまを表してしている自分の鏡だと思う。自分では自分が良く見えない。でも歴史の中にはさまざまな人間の要素が詰まっているのさ。その成功と失敗、Nagare 善良な面と醜悪な面、偉大な行動、汚い行動を見ていると自分がだんだん、はっきり見えてくるのさ。こんなのが自分なのかとか.....。これは良い、こんな風になりたいなとか。これは勘弁してほしいとか。良い面も悪い面も見える鏡さ。

M なるほど、そうなのね。

J 人間を知るには心理学とか人類学とかがある。人間の体の事を知るには解剖学だ。でも実際の生身の人間の言動を知るには歴史しかないんだ。つまり人間学の一つが歴史じゃないかなと思ってるんだ。

M でも歴史はだれかが書いたのでしょう。とすると嘘を書く事もできちゃうんじゃないかしら。

J うん。それは良い点に気が付いたね。基本的には多くの歴史は勝者の歴史だと言われている。勝った方が一方的に書いた場合、歴史が歪められたり、偏向してしまう事もある。例えば一方的な欧米中心の世界史は今では書き換えられるべきだよね。

M なるほど。

J でも記録、つまりそれが歴史の土台なんだけれど。その記録自体を良く見るといつもある個人が書いているんだ。だからその人の観点が必ず入っている。

つまり客観的な歴史なんかないんだね。だから一言でいうとその記録を書いた人の見方も含めての人間観察の材料が歴史という事になるね。

それに人間はいつも物語りが必要なんだ。

イエスは言っているだろう。<人はパンのみにて生きるにあらず>とね。歴史の中には常に想像、空想、詩も含まれているのさ。詩と真実がミックスしているのさ。歴史はフィクションとノンフィクションのかたまりなんだね。でもその全体のあり方が人間とは自分とは何かを教えているということじゃないかな。

歴史はその意味で自分を含めて、人間を知る為の鏡や旅に似ていると思うね。

 

2006-04-04

クレタの牛とび

メリーとジョンおじさんは週末の午後、庭にテーブルを出して、いっしょに紅茶を飲み、ビスケットを食べている。

M ジョンおじさん。歴史の話の続きを聞かせてよ。

J メリー。そんなにせかしても駄目さ。何かはっきりとした事が分ったらまたね。

M じゃあ 今日は何のお話をしてくれるの。

J そうだなあ。じゃあわたしがまだ若かった頃の事を話そうか。わたしには忘れられない思い出がある。それは地中海 Crete2_1 の中にポツンと浮かんでいるクレタ島 に行った時のことさ。もう亡くなったおばと一緒に行ったのさ。

M まあ。クレタ。わたしも行って見たい。

J うん。すばらしかった。そこで見た<Bull-Leaping>は忘れられないね。これは今から3400年前のものなんだ。ほら見てごらん。おもしろいだろう。Ushitobi3

M ほんとにきれいだわ。でもこれは何をしてるのかしら。

J  うん。これは一人の牛跳びが牛の角を持つところ、牛の上を跳ぶところ、跳んで牛の背後に立つところを同時に描いたものらしい。

その背景については、いろいろと説はあるけれど、はっきりとした事は分らないんだ。これはクノッソスというクレタの宮殿で見つかったものなんだ。

でも似たような絵がエジプトのAuarisというナイルデルタの東側でも見つかっている。当時エジプトはヒクソスという異民族に支配されていたのさ。そのヒクソスの宮殿の中から同じような牛跳びのフレスコ画が見つかったんだ。今から3600年前のものらしい。Ushitobiauaris

M つまりその当時、この牛跳びはクレタとかエジプトで実際に行われていたということなのね。

J そうらしいね。何か宗教的な意味もあるみたいだけれど。祭礼の折におおぜい人が集まった時などにやった一種のささげものだろうね。

今で言えばサッカーのシュートに沸く競技場の雰囲気かもしれないね。でもこれは一歩間違えるといのちにかかわる危険な競技だ。

いつかテレビで日本のおみこしとおみこしがぶつかる危険なお祭りの様子を見た事がある。あの雰囲気だね。多くの観衆のどよめきがきこえてくるようだ。

2006-04-03

皇帝と商社

J  やあ メリー 元気かい。日本と中国における商業。今日はこれについてはなしをしよう。

M 商業って金儲けという事なの。

J そうだ。中国の皇帝は基本的にいつも他の商人を圧迫した。皇帝自身が塩とか鉄を独占的に販売したんだ。つまり皇帝という政治権力者が同時に商人だったという事なのだ。それだけじゃない。海禁といって外国との通商を制限した。

M じゃあ、中国では貿易は行われなかったの?

J  貿易は特別な形で行われたのさ。外国使節は臣従のしるしとしての貢物を持って中国皇帝を訪問する。皇帝はそれに対して、おみやげの品物を外国使節に賜った。これが朝貢貿易と呼ばれている外国との貿易のやり方なんだ。

M でもおじさんの言う事を聞いていると中国の皇帝というのはプロの筋金入りの商売人みたいね。

J そうなんだ。莫大な商売の利益を独占したのが皇帝だったんだ。岡田英弘は言っている。中国の皇帝はつまりは総合商社の社長だとね。

M 皇帝以外の人はどうやって生活したんでしょう。

J うん。中国では金にありつくには科挙という試験を受けるしかなかったんだ。科挙というのは、官僚、つまり役人になるための試験のことさ。これは598年から1905年まで、実に千年以上も延々と続いているんだ。

M 日本の場合はどうだったのかしら。

Utagawahiroshige

J うん。日本の場合は様相は違うね。
日本はポルトガルとかスペインの国が日本を植民地化する危険を知って、1616年から1853年までの239年間、国と閉ざす。いわゆる鎖国だ。これ以外の時代を通じて日本は商売や貿易においては、常に外に向かって開かれていたんだ。

M つまり日本は海洋国なのね。

J そうだ。日本は瀬戸内海という海の新幹線を持っていた。これを軸に海洋に展開していたんだ。昔は韓国南部にも倭人が住んでいたし、日本人村はルソン、アンナン、カンボジア等の東南アジアの至るところにあった。それだけじゃない。難波の米市では世界で初めて先物取引も始めた。

M そういえば学校で教わったわ。日本の武士は金はあまりなかった。

J そうだね。江戸時代の末、殆どの大名は商人に莫大な借金があった。つまり日本の幕末は実際には、もう商人の天下だったという事だ。

2006-04-02

日本の国号

ジョンはメリーの家で夕飯を食べた後、コーヒーを飲みながらソファーで休んでいる。メリーが紅茶を持って来る。

M ジョンおじさん。日本と中国の事だけど....。変ね。学校で習ったけど、日本は文字なども中国から取り入れているよね。それに使節を派遣して、中国文化を導入して来た。そうよね。

J うん。わたしも初めそう思っていたんだ。でも、彼の話をきいて、その後で自分でも色々と調べてみたんだ。そうするとね。例えば日本と中国の国としての付き合いについては以外な事実が分ったんだ。

M へエー。何の事。

J 日本の友達が長いメールを送って来た。その内容をかいつまんで言うと。

その頃、中国は唐といった。唐は兵をだして朝鮮の百済を攻撃した。倭は軍隊を送って百済を助けようとする。しかし、663年白村江(はくそんこう、はくすきえ)で倭・百済軍は唐・新羅軍に大敗。これで倭は朝鮮における領土と権益をすべて失うのさ。

倭つまり九州王朝の滅亡。Naigyoukamonkyo_1

倭を飲み込んだ、大和朝廷は国号を<日本>と改める。

672年の日本最大の内乱である壬申の乱。天武天皇の律令体制へと向かう。

この頃が新しい国の陣痛の大変革の時さ。

つまり拡張する唐の体制にのみこまれまいとする必死のもがきの中から日本という統一国が生まれたのさ。

唐の脅威がなかったら統一国、日本は生まれていなかった。日本という名前には中国に対して断固として独立国家としてやっていくという決意が込められていたと言うわけだ。

M まあっ。それは本当?

J うん。日本という国が生まれて以来、日中両国の国と国の正式な国交は1913年になるまで1度もなかったんだ。これは歴史的な事実だ。

M でも学校で習ったわ。日本の将軍は中国と交流していた。

J そうだね。でもそれは足利とか徳川の私的交流としてやったということさ。政経分離が原則だったんだ。

わたしにとって驚きだったのは、日本の建国が唐体制からの独立防衛と関係していたという言う点なんだ。

今また日本は大陸の隣人達の圧力に苦しんでいる。

厄介な大陸勢力に対して海洋勢力でバランスをとっていく。これが日本にとって大切だと思うね。

日本の生きる道はアメリカ、および海洋アジア諸国とできるだけ堅く手を組ん行くことだと思うね。

2006-04-01

皇帝と天皇

ジョンはメリーのおじさん。2人ともロンドンに住んでいる。メリーは好奇心と知性あふれる活発な少女である。ジョンおじさんは隣に住んでいる。もとは会社勤めであったが、今は引退して1人暮らしである。何時もメリーの家で食事をしている。2人は大の仲良しである。

メリー(以下Mと略す) ジョンおじさん。もう30分くらいで食事が出来るってママが言ってたわ。ジョンおじさん何をしているの。Bara1

ジョン(以下Jと略す) やあ、メリー。ありがとう。いま日本にいるお友達とチャットしていたのさ。少し待ってね。すぐ終わりにするからね。これでよしと。さあ、ここに座らないか。

M ありがとう。で、そのお友達って日本人なの。

J そうさ。わたしがまだ会社勤めしていた時以来の友達でね。古い付き合いなのさ。向こうも去年、定年退職してね。昔は手紙でのやり取りが多かった。でもこの頃は殆どメールとか、チャットでおしゃべりなのさ。

M まあ、そうなの。 いつもどんなお話しをしてるの。

J わたしも向こうも歴史が好きでね。いつも歴史とか文化とかの話さ。今やっていたのはね、日本と中国の違いについておしゃべりしていたのさ。驚いたよ。あまりにも自分が考えていたのと違うからね。

M 日本と中国....。

J わたしはね、ある日、その友達に言ったのさ。日本と中国は兄弟みたいな関係だねって。同じ漢字という文字を使っているし。それに文化も似ているしね。中国人の顔も日本人の顔もわたしには区別出来ないし.....と。

M で、その日本のお友達は何と言ったの。

J それなんだよ。驚いたね。彼は突然、興奮してね。

M へエー。何故かしら。

J うん。日本と中国は水と油だって言うんだ。わたしはビックリしてね。詳しく説明してくれと言ったんだ。そうしたら2-3日経って、彼は長い説明のメールを送ってきてね。とても驚いたよ。それ以来わたしと彼は議論を楽しんでいるのさ。おもしろいね。わたしの知らなかった事ばかりだからね。

M 例えば、どういう点なの。

J そうだね。まず中国の皇帝と日本の天皇の違いだね。

M どういう違いなのかしら。

J 中国の皇帝は絶対独裁なのさ。世界に太陽は1つしかないだろう。それと同じく、中国の皇帝は宇宙のすべての権威、権力を自分だけに集めたものだそうだ。政治的な権力だけじゃなくて、宗教的な権威も全部、皇帝に集めたのさ。その中心を中華というのさ。

M ヨーロッパでいうとローマ皇帝と教皇とを一緒にした感じなの。

J その通り。その宇宙の中心から、周辺に向かって遠くなればなる程、<礼>、つまり文明から外れた野蛮人になって行く。それでそれらの野蛮人を中華の礼に従わせるのが化華というんだ。それが中華主義なのさ。つまり中国が世界の唯一の中心だと主張しているのさ。

M それで。日本の天皇は。Magatama

J うん。彼が言うには日本にはいつも2つ以上の中心があったというんだ。日本の天皇は豊穣を天に祈る最高の祭の主だと言うんだ。政治権力の本当の主は征夷大将軍、つまり一般には将軍とよばれていた軍の統率者だ。そう彼は言っている。

M でも、勢力同士がぶつからなかったのかしら。

J そうだね。ヨーロッパでは何回も政権と教権がぶつかっているよね。でもその過程で多くの中心というヨーロッパの形は壊れないで今日に至るまで続いているよね。日本はどちらかと言うと、この多くの中心という形らしい。それに実権を握った将軍もよくみると絶対者というより沢山いる豪族の中の第1人者でしかない。つまり日本の歴史には中国的な意味の独裁者はいないと彼は言うんだ。